★ 距離指針22cm


平成9年の協議会の指針を受けて、総務省が平成17年に策定された指針として、影響を受けない距離『22cm』が謳われた。
(この指針は医療機関、関係省庁、植込み型医療機器業界、携帯電話業界等を通じて幅広く周知されており、現在まで国内において携帯電話を含め電波利用機器による植込み型医療機器における電磁干渉問題は発生していない。 )


これは、満員電車、欧米と異なる携帯電話方式 などの日本独自の状況に鑑みての実験が元になっている。
※ 最大の影響が確認された 1.5 GHz 帯のPDC 方式(第 2 世代携帯電話方式の1 つ)を利用する国は世界において日本のみ


ただし、この実験は、所謂第2世代と呼ばれる電話と、当時の植込み型医療機器(ペースメーカーなど…と呼ばれるが、 植込み型心臓ペースメーカと、植込み型除細動器などが含まれる)との実験である。


★ 国際規格制定と第2世代携帯サービスの終了


この実験の後、欧米で植え込み型医療機器の世界標準となる規格が制定される。
この規格の中には、『電磁妨害(EMI)』に対する耐性『電磁両立性(EMC)』の基準があり、これが、6インチ(約15cm)の距離で、EMI耐性が担保されることという項目がある。(この規格に適合しないと、商品として流通できない)
日本では、すべてから欧米からの輸入に頼っている。
したがって、日本の30-40万人と言われる植え込み型医療機器装着者のほとんどが、この規格適合のものを使用している。


また、平成24年7月25日をもって、第2世代携帯のサービスは終了ということになり、第3世代以降の携帯については、(第2世代と比べて)電磁影響が小さくなっている。


以上の事実に鑑みて、EMI耐性が大きく改善した世界標準規格の適合品の植え込み型医療機器と、第3世代以降(LTEを含む)の携帯電話機 を対象にした実験を新たに(去年?or一昨年)行った。


★ 実験の結果


CDMA2000 1xEV-DO Rev. A方式の携帯電話端末実機から電波を発射した場合の影響は、植込み型心臓ペースメーカ 40 機種のうち 5 機種で発生し、総試験数に対する影響発生試験数の割合は 3.8 %であった。また、最も遠く離れた位置で影響が発生した機種の距離は 1 cm 未満であり、その影響度合いはレベル 2であった。


(レベル2 の影響:持続的な動悸、めまい等の原因になりうるが、その場から離れる等、患者自身の行動で現状を回復できるもの)


スクリーニングのための試験として、半波長ダイポールアンテナから電波を発射した場合の影響は、植込み型心臓ペースメーカ 40 機種のうち6 機種で発生し、総試験数に対する影響発生試験数の割合は 5.8 %であった。また、最も遠く離れた位置で影響が発生した機種の距離は 3 cmであり、その影響度合いはレベル 2 だった。


(電波の医療機器等への影響に関する 調査研究報告書 平成24年3月 P31-32)


最大で3cm以内に近づけなければ有意な影響は認められない…と要約できる。


★ 新しい指針策定への道


とはいえ、今後の携帯電話の新方式、周波数、および端末がどうなるかはわからないので慎重に(マージンをとって)検討すべき。(同 P39)
※ 携帯電話米国規格のANSI/AAMI PC69 の第2 版(ANSI/AAMI PC69: 2007)では電波発射源である半波長ダイポールアンテナの入力電力の値が 40 mWから120 mWに引き上げられている(同 P58)


諸外国の距離指針は総じて 15cm(6インチ)である。
従って、植え込み型医療機器を欧米からの輸入に頼る日本も距離指針を15cmにとるということは合理性がある。(同 P39)


一方、国内の植え込み型医療機器装着者は増加傾向(30-40万人と推計)(同 P58)
社会全体で装着者が安心して生活できる環境を作っていくことが求められる。(同 P42)


★ さまざまな検討案とその却下理由


「距離指針を記載しない」という検討案は…


安全側に振った試験であるとはいえ、実際に試験では影響が発生している国際規格が定める試験によって、15cm 相当の距離では携帯電話の影響を受けないことが確認されている。したがって、指針の中に距離を明記しないことは影響の防止策としては不十分…故に却下。(同 P40)


「現世代(第3世代)以降の携帯電話方式における最大干渉距離に安全マージンをとった値とする」という検討案は…


そうするには、追加実験を行い、現在の最大干渉距離を出す必要があるので却下。(同 P40)


「今までそれで問題が起きなかったという事実を評価して、従来通りの 22cm でいく」という検討案は…


22cm という距離指針の根拠になってきた携帯電話サービスが終了する中で、世界でも最も厳しい日本の距離指針を維持する根拠がみつからない。
だからやはり現状に合わせた新しい指針は必要…却下。(同 P41)


★ 結論


新たな指針の具体案では、現行指針の「近接した状態となる可能性がある場所(例:満員電車等)では」という表現を「密着した状態となる可能性がある場合(例:満員電車等)」に置きかえた。(同 P42)
(下の句は、「その携帯電話端末等の電源を切るよう配慮することが望ましい。」)


※ 『近接』が『密着』に、『場所』が『場合』にそれぞれ変化している。
つまり、満員電車であっても、「他人と(携帯が15cm以上の距離がとれないほど)密着する可能性がない場合」においては、携帯の電源を切る配慮は必要ない…と読み取れる。


携帯電話端末及び PHS端末の電波が植込み型医療機器へ及ぼす影響を防止する ための指針


     ア 植込み型医療機器の装着者は、携帯電話端末の使用及び携行に当たっては、携帯電話端末を植込み型医療機器の装着部位から 15 cm程度以上離すこと。
また、混雑した場所では付近で携帯電話端末が使用されている可能性があるため、十分に注意を払うこと。


     イ 植込み型医療機器の装着者は、PHS 端末の使用に当たっては、アの携帯電話端末と同様に取り扱うこと。
PHS 端末を植込み型医療機器へ近づけた場合に全く影響を受けないわけではなく、また、PHS端末と携帯電話端末が外見上容易に区別がつきにくく、慎重に取り扱うという意味で、携帯電話端末と同様に取り扱うことが望ましい。


     ウ 携帯電話端末及び PHS 端末の所持者は、植込み型医療機器の装着者と密着した状態となる可能性がある場合(例:満員電車等)、その携帯電話端末等の電源を切るよう配慮することが望ましい。


※ ここで今更だが注目すべきなのは…
アおよびイは、植え込み型医療機器の装着者本人にたいしての指針であり、本人以外の携帯電話端末所持者についての言及は、ウのみであるという点。